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クラフトビールで就労困難者を支援

宮城・石巻 一般社団法人「イシノマキ・ファーム」代表理事 高橋由佳さん(57)

東日本大震災で甚大な被害を受けた宮城県石巻市で、耕作放棄地を活用して農業に取り組む一般社団法人「イシノマキ・ファーム」の代表理事を務める。法人では、引きこもりの人や障害者ら就労困難者と、他の従業員がともに働く「ソーシャルファーム」(社会的企業)の理念を掲げて活動している。

クラフトビールで就労困難者を支援クラフトビール「巻風エール」を手にする高橋由佳さん=宮城県石巻市(石崎慶一撮影)

障害者の就職や就職後の定着を支援する専門職などを経て、平成23年に心に病を抱える人の就労支援を行うNPO法人を仙台市に設立。震災後、被災地の石巻市で引きこもりや不登校が増えていたことから、25年に高校生や若者の就学・就労支援、心のケアを行う事業所を設置した。

事業所では、地元の農家から借りた農地で、活動の一環として農業体験を取り入れた。「農地に来るとみんなが笑顔になりました。引きこもりの若者も休まずに農作業に来るようになった」と農業に「人を元気にする力」を見いだした。

そこで農業を中心とした就労支援の仕組みを構築しようと、同市北上町で築約130年の古民家を借りて拠点にし、28年にイシノマキ・ファームを立ち上げた。

ファームでは、高齢化や震災の影響で発生した耕作放棄地を借り、約1ヘクタールで野菜を栽培。農業は初心者だったが、地域の農家らの支援があった。29年からビールの原料となるホップの栽培を本格的に始め、収穫したホップは岩手県内の酒造会社に醸造を委託し、クラフトビール「巻風エール」が誕生した。名前には「震災後、全国からエールを送ってもらったので、今度は自分たちが石巻の風に乗せてエールを送りたい」との思いを込めたという。

さわやかなホップの香りが好評で、石巻市内の飲食店などで扱っているほか、仙台市内の商業施設やECサイトなどでも販売。石巻市のふるさと納税の返礼品にも採用されている。ホップ栽培やビール販売が軌道に乗り始めたことから「石巻市内に自前の醸造所をつくり、来年春には醸造を始める予定です」と笑顔を浮かべる。

ファームでは現在、心の病など働きづらさを抱えている人が一般就労に向かうための「中間的就労支援」を農業を通じて行っている。訓練を受けた人に日当を支払う形態で、日当は寄付金などで賄っている。一方、ソーシャルファームは通常のビジネスとして利益を上げ、就労困難者を雇用し、他の従業員と対等の給料を支払う形が基本だ。

「ビールの醸造所をつくることで、就労困難者の雇用の創出が実現できそうです。他の事業で収益性を高めようと考えるスタッフもいます。多様な人が働ける場をつくっていきたい」とソーシャルファームの実現に意欲を示す。(石崎慶一)

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