小さな醸造所で少量ずつ造られる「クラフトビール」。米醸造所協会の統計によると、クラフトビールの醸造所は2020年に8764カ所となり、10年前から約5倍近くに急増した。バドワイザーやミラーなど世界的なブランドが有名な米国だが、地域に根差す個性豊かなクラフトビールも注目されている。 (ワシントン・吉田通夫、写真も)
月曜日の午後4時半。平日のまだ明るい時間帯から、首都ワシントンにあるビアバー「レッドベア・ブルーイング」には客が集まり笑い声が響く。店内の一角には大きなタンクがいくつも。ラガータイプの「ピルスナー」や香り高いエールタイプの「IPA」、カボチャの風味を加えた「パンプキンエール」など10種類以上を自家醸造している。
「大手メーカーは膨大な量を造り安く販売できるけど、私たちのようなユニークで面白いビールはできないからね」。共同オーナーのブライアンさん(41)は、クラフトビールの人気を解説する。醸造所に併設したビアバーの魅力を「どこからか運ばれてくる製品ではなく、近所の醸造所で、造っている人と話しながらビールを楽しめる」と語る。
近くに聴覚障害者のためのギャローデット大があり、手話でのクイズ大会などを頻繁に開く。性的少数者(LGBT)を積極的に受け入れるなど、地域密着と多様性が特徴だ。
地域密着型の醸造所やビアバーは、1990年代から2000年代初めにかけてカリフォルニア州など西海岸で人気に。ブライアンさんも西海岸のシアトルでビールフェスティバルに参加したのをきっかけにクラフトビールに興味を持った。その後、西海岸のようなビールの文化を東海岸に持ち込もうと、首都ワシントンで19年に開店した。
新型コロナウイルスの影響で20年の売上高は前年より80%も減ったが、宅配などでしのぎ、ワクチン接種が普及した最近はにぎわいが戻ってきた。
クラフトビールの人気は高いが、米国のビール消費量に占める割合は17%にすぎず、大手メーカーが支配的だ。それでも米国では、スーパーマーケットの棚に周辺地区のクラフトビールが並ぶのが一般的。レッドベアは外部に卸すほどの生産量を確保できていないが、ブライアンさんは「成長し業容が拡大すれば、外販の可能性も出てくる」と意欲を見せた。