フルーティーで豊かな香りのエール系、すっきりした飲みやすさが特徴のラガー系など、多種多様なテイストが特徴のクラフトビール(地ビール)。地域の特産品や観光資源を活用した新商品、大手メーカーの需要喚起策など、北海道の市場を盛り上げる取組みが注目を集めている。
クラフトビールは、1994年4月の酒税法改正でビールの年間最低製造数量が2000キロリットルから60キロリットルに大きく引き下げられたことにより、全国各地に続々と登場した。
少量生産ながらも地域に根差した個性的な味わいが魅力で、北海道では酒税法改正後初の製造免許取得会社であるオホーツクピルスナーの「オホーツクビール」(北見市)やハンバーグレストラン「びっくりドンキー」を運営するアレフの「小樽ビール」(小樽市)のほか、「開拓使ビール」(札幌市)、大雪ピルスナーの「大雪地ビール」(旭川市)、五稜の星の「はこだてビール」(函館市)、オホーツクブルーが鮮やかな流氷ドラフトの「網走ビール」(網走市)など各地で現在29の醸造所がクラフトビールを製造し、累計銘柄数は65に及ぶとされている(2022年2月時点)。
「地ビールメーカー動向」(東京商工リサーチ調べ)では、巣ごもり需要やスーパー・コンビニなど小売店向けの販売好調を受け、2021年1~12月の北海道のクラフトビール出荷量は530.6キロリットル(前年比22.1%増)。2021年1~8月の全国出荷量ランキングでは、3位に網走ビールが356キロリットルでランクイン。道内の2021年1~12月ビール類販売POSデータ(KSP-POS参照)では小樽ビールの「ピルスナー」や網走ビールの「ゴールデンエール」のほか、北海道麦酒醸造(小樽市)の「小樽OGピルスナー」、薄野地麦酒(札幌市)の「すすきのビール」などが定番ビール商品の中に名を連ねている。
クラフトビールは醸造所が小規模でも製造可能なことが特徴だが、大手メーカーが需要を後押しする流れもあった。キリンビール北海道統括本部は2019年に、飲食店向けに設置している専用サーバータップ・マルシェ用「ブルックリンソラチエース」を発売。サーバーのラインアップを12ブルワリー26銘柄とし、クラフトビール市場の活性化に取り組んだ。
また、アサヒビールは2019年7月から開催した「福祉協賛さっぽろ大通ビアガーデン」で、自社のクラフトビール拠点であるTOKYO隅田川ブルーイング醸造の厚真町産ハスカップを使った「ハスカップエール」を数量限定販売し、北海道の夏の風物詩であるビアガーデンを盛り上げるなど、消費者がクラフトビール文化を身近に感じる機会も増えている。
一方、地域産品としてクラフトビールを売り出し、おらが町をPRする動きも見られる。美幌商工会議所青年部(美幌町)は創立40周年記念事業として2020年9月、美幌産小麦「きたほなみ」と日本甜菜製糖美幌製糖所のビート含蜜糖を使った「Bihoro Ale 美幌エール」を発売した。昨年7月の第2弾販売に次ぎ、11月には採れたて小麦のうまさを引き立てた「美幌エールPREMIUM」も数量限定販売するなど、人気の高さがうかがえる。
また雄武町のオホーツク温泉「ホテル日の出岬」は、1月下旬から「Rising Sun(ライジング・サン)」を発売。美深白樺ブルワリー(美深町)が全面協力し完成したオリジナルエールで、「オホーツクの日の出を見ながら乾杯したい」という思いのもと、淡い金色のゴールデンエールとすることで日の出の輝きを再現した。
大麦麦芽とホップで風味づけされたピリッとした苦みとグビッと飲める軽快さが特徴。ラベルにはオホーツクの日の出をデザインし「ボトルを全国に発売することで、僕らの地元にはとっておきの良い場所があるから、この町に来てほしい」という願いを込めた。1本330ml入りボトル800円(税込み、レストラン販売では980円)、6本セットは箱代込みで5000円(同)。
札幌国税局酒税課によると、「北海道のクラフトビール醸造所数は増加傾向にある」という。道内では、札幌の酒造会社と「澄川ラガー」の澄川麦酒(札幌)が資本業務提携し、2023年秋の稼働を目指し千歳市に道内初の複合酒造施設を計画しているほか、士別市の地域事業会社が開設した「士別サムライブルワリー」の誕生、クラフトビールの醸造技術指導などを手掛ける企業(富良野市)が道東・鶴居村の廃校となった小学校の体育館をリノベーションし、醸造所設立に向けたプロジェクトを進めるなど、北海道でのクラフトビール文化確立に向け期待がかかる。