■街を元気に…膨らむ夢
JR長野駅善光寺口に近い通称「二線路通り」。道沿いに立つ和風の外観の店舗をのぞいてみると、銀色の醸造タンクが並んでいるのが目に入った。
長野市北石堂町の「山の間ブルワリー&クラフトビアパブ」。居酒屋だった建物を改装し、昨年9月にオープンした。山の間に挟まれた善光寺平―から着想した店の名前。店主の小山一夫さん(62)は「多くの人が気軽に立ち寄り、安心して癒やされる場になってほしい」と願う。
東信地方の自動車部品メーカーに勤務していた1995年から約10年間、米国オハイオ州に赴任。米国の20州以上を仕事や旅行で訪れ、各地でクラフトビールと出会った。日本で主流のピルスナータイプとは違い、それぞれ香りや味わいに個性があった。「こんなに違う楽しみ方があるのか」と、その魅力のとりこになった。
その後、再度の米国勤務を経て、2018年、新潟県聖籠町に転勤。店舗をかねた小さな醸造施設でビールを製造している「沼垂ビール」(新潟市)を知った。「大がかりなことをしなくても、クラフトビールを造れるかも」。そう考えた。
ちょうど、定年退職後のことも考えるタイミング。故郷の長野市に戻り、何かを始めたい気持ちもあった。興味があったクラフトビールを手がけようと決めてからは、平日は仕事、週末は沼垂ビールで醸造を学ぶ日々。雑菌を防ぐ設備洗浄の重要さや、麦汁をつくる際の時間、温度管理など、地道な工程を一から経験し、覚えた。
店内の設備では今、3種類のビールを醸造している。麦芽に米を加えてまろやかに仕上げた「ライスヴァイツェン」やライ麦のスパイシーさを感じる「ライペールエール」、燻製した麦芽を使った「ラオホエール」だ。提供するサラダ、ニラせんべいなどの料理は地元産の食材にこだわる。通りがかりに気になって入って来る人からクラフトビール通まで、客もさまざまだ。
今後は市内の果物を使ったフルーツビールに挑戦したいとも考えている。「長野を元気にしたい」「お客さんにおいしいと思ってもらい、クラフトビールの楽しさを知ってほしい」…。小山さんの夢は膨らみ続けている。(鳥居哲弥)