国内だけでなく、海外のファンをも酔わせるビールが、静岡県伊豆市にある。「万人受けしなくても構わない。価値の分かる人に愛してもらえたら」。そんな思いで、ビール造りに励むのは、米カリフォルニア州出身のブライアン・ベアードさん、さゆりさん=ともに(54)=夫婦だ。
もともと大のビール好きだった二人は二十五年以上前、米国で出会った。日本では一九九四年の酒税法改正に伴い、ビール生産が少量でも可能に。各地の小さな醸造所が造る「クラフトビール」が広まり始めていた。
二人でいろいろ飲み比べたが、どうしても満足できる味がない。「それなら、自分たちでやろう」。米国で醸造を学び、「ベアードブルーイング」を設立したのは二〇〇〇年。同県の沼津港近くに出した直営店で提供していたところ、パンチの効いた苦味と豊かな香りが徐々に評判を呼んだ。一四年には、伊豆箱根鉄道修善寺駅から車で約十分の場所に三階建ての工場を建設。今では、米国やタイなど国外にも輸出している。
ビール造りに欠かせない材料、ホップ。最小限の加工しかしていない生ホップを使うのがこだわりだ。生命線となる仕込み水は、豊かな湧水群を誇る伊豆半島の地下水を使う。「ここは、ビール造りに最適な場所」とさゆりさんは言う。
ブライアンさんの研究熱心さを反映し、商品は定番だけで十二種類も。人気は「スルガベイインペリアルIPA」だ。無ろ過のため瓶の底には酵母が沈み、瓶の中でも発酵が進む。アルコール度数は8・5%と高く、ガツンと苦い。自然と飲むペースはゆっくりになり、時間をかけて酔いが回る。
「ビールの役割は美しくシンプル。人をより幸せにすること」。二人は、丹精込めたビールをおいしそうに飲み干した。
文・写真 細川暁子
◆買う
ベアードビールは330ミリリットルの瓶入りで、色鮮やかなラベルが目を引く=写真。1本500円前後。同社ホームページでは「スルガベイ−」、わさびや緑茶などからなる「わびさびジャパンペールエール」、黒ビール「島国スタウト」といった定番商品に加え、季節の果物や野菜を使った限定品も購入が可能だ。
広さ約3ヘクタールの工場敷地内には、ビールを生み出す伊豆の自然を満喫できるキャンプ場も。静岡県沼津市のほか、東京の原宿や吉祥寺などに直営のビアパブがある。