ポリ袋で醸造のクラフトビール 島根・石見麦酒の挑戦

定番シリーズ(左の3本)や石見神楽シリーズなど常時20種ほど用意。地下80メートルからくみ上げた井戸水を使っている
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定番シリーズ(左の3本)や石見神楽シリーズなど常時20種ほど用意。地下80メートルからくみ上げた井戸水を使っている

定番シリーズ(左の3本)や石見神楽シリーズなど常時20種ほど用意。地下80メートルからくみ上げた井戸水を使っている

 

世界遺産の石見銀山(島根県大田市)から車で約50分。島根県西部の中国山地を望む小高い森の中にあるのが、温泉リゾート「風の国」(同県江津市)だ。敷地内にある石見麦酒は、画期的な醸造法を始めたクラフトビール会社として注目されている。

ビール醸造は金属製のタンクを使って行うのが一般的だ。だが、2015年創業の同社はポリ袋を使って醸造している。工場長の山口巌雄さんは起業を志したとき「ビール醸造の温度管理をする冷蔵庫は四角なのに、そこに入れるタンクが丸なのはナンセンス」と疑問を抱いていた。そんな時、友人の一人が「ポリ袋を使えばいいじゃないか」とヒントをくれた。「それだ!」となった。

石見麦酒は温泉リゾート「風の国」の敷地内にある

石見麦酒は温泉リゾート「風の国」の敷地内にある

 

大学卒業後、味噌メーカーで働いた経験のある山口さん。味噌づくりでポリ袋を使用するのは一般的だった。このためビール醸造でも応用できる確信があった。ただ当初はなかなか理解を得られなかった。

転機になったのが14年度の江津市ビジネスプランコンテストへの応募だった。アイデアは大賞を受賞。翌年には山陰合同銀行のごうぎん起業家大賞でも最優秀賞に輝いた。受賞により様々なバックアップを得られたことで、醸造免許を取得できたという。

ポリ袋で醸造するので大規模投資は不要。金属製タンクは醸造した後の洗浄作業が大きな手間だが、食品製造用のポリ袋は使い捨てで省力化も図れる。一度の醸造が50~200リットル程度の小規模なクラフトビール会社にはもってこいの製法だ。

冷蔵庫に入れたポリ袋に麦汁などを入れて醸造する

冷蔵庫に入れたポリ袋に麦汁などを入れて醸造する

 

特許などは取得せず、醸造法はオープンにした。「ビール業界は様々な会社がレシピを公開するなど開けた業界だから」と山口さん。そのため同社で学んだ人など、石見式醸造法は日本各地の50社程度に広がっている。

ワインはぶどう、日本酒だと酒米や酒こうじという素材の制約があるが、ビールは麦芽などのほかに副原料として様々な食材が使える。副原料によって味も香りも色も千差万別。「自由な発想で取り組めるところに面白さがある」と語る。

定番シリーズは8種。県西部の石見地方産のシークワーサーや夏みかんを使った「セッションIPA」は、爽やかな香りの中にしっかりした苦みがある。米を加えた「セゾン」はすっきりした味わいが特徴だ。

このほか安納芋やいちじくなどを用いた石見神楽シリーズ5種類や生ビールなど、常時20種類以上用意している。温泉リゾート「風の国」には、本館のほかコテージ、グランピング施設もある。湯上がりの一杯を楽しみにやってくる宿泊客などで週末を中心ににぎわう。

温泉リゾート「風の国」。本館のほかコテージやグランピング施設もある

温泉リゾート「風の国」。本館のほかコテージやグランピング施設もある

 

「大きな施設を持った醸造所だと週に1回程度しか醸造しないところもあるが、うちは年間300日ほど醸造する。だから、まだ始めて6年だが、いろんなノウハウが蓄積できている」と山口さん。業界に革命を起こした島根の小さな醸造所の挑戦は続く。

(松江支局長 鉄村和之)

ポリ袋で醸造のクラフトビール 島根・石見麦酒の挑戦

日本経済新聞
ポリ袋で醸造のクラフトビール 島根・石見麦酒の挑戦 - 日本経済新聞 世界遺産の石見銀山(島根県大田市)から車で約50分。島根県西部の中国山地を望む小高い森の中にあるのが、温泉リゾート「風の国」(同県江津市)だ。敷地内にある石見麦酒...
定番シリーズ(左の3本)や石見神楽シリーズなど常時20種ほど用意。地下80メートルからくみ上げた井戸水を使っている

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