SDGs達成に向け、クラフトビールの製造・販売事業を通じて環境問題や地域創生などの社会課題に取り組むユニークな企業を取材。ワインづくりに使われず土に還される“運命”のブドウが、若者や女性に人気上昇中のクラフトビールに変身する裏側に迫りました。
■クラフトビールが近年、若者や女性に人気
クラフトビール(地ビール)とは、一般的には小規模のビール醸造所で造られるビールのことです。「職人技」という意味をもつ「クラフト(Craft)」が由来している通り、醸造家の丁寧な仕込みが特徴といえます。そして、個性やバリエーションが豊かなのもこのビールの特色です。
クラフトビールの発祥国とされるアメリカでは、クラフトビール組合がクラフトビールの定義について「Small, Independent, Brewer」(小規模、独立性がある、伝統ある醸造家)という三原則を決めています。日本では、1990年代後半の地ビールブームの流れをくみながら独自に発展し、近年「ビールは味がどれも似た味が多い」などの理由からビール離れ傾向にあったビール通や、「個性的な香り」や「ほのかな甘さ」、「フルーティーな香り」を好む若者や女性に特に人気です。
■クラフトビールメーカーの「山梨応援プロジェクト」
コロナ禍の去年10月、東京・渋谷にあったクラフトビールメーカー「Far Yeast Brewing」は本社を人口約700人の山梨・小菅村に移転しました。「コロナで在宅勤務をせざるを得なくなった。東京は固定費がかかるので、地方に拠点を移すことで家賃なども安くなった」と話す山田司朗社長(46)。社員22人のうち5人が小菅村在住です。
コロナの影響で山梨県内のイベントも、観光客も大幅に減少している中、山田さんたちは「山梨を盛り上げよう」という思いで、醸造所のある山梨の素材を使い、様々なMade in Yamanashiのビールをつくる「山梨応援プロジェクト」をはじめ、ことし11月まで第8弾まで展開したということです。
今回の第8弾は、ワイン用のブドウ栽培の途中に間引いてしまうブドウを活かして、ブドウのフレーバーのクラフトビールを製造・販売するというものです。
■捨てる“運命”のブドウが東京都内の直営店で人気ビールに
ワイン用のブドウ栽培では、果実ひとつひとつに栄養が行き渡るよう、途中で間引きをする「摘房」という作業があります。摘房されたブドウはすべて畑に廃棄され畑の肥やしとなってしまいます。
「フードロス」にならないよう、「山梨応援プロジェクト」の一環として、廃棄される運命だったブドウを、山梨の「シャトー・メルシャン 勝沼ワイナリー」から安く譲り受け、独自の醸造方法でブドウの香りが楽しめるクラフトビール「Far Yeast Grapevine2」をつくりました。
東京・五反田にある直営店を訪ねると、バーカウンターにビールのタップが並び、その横には、店長富田浩嗣さんの次々とグラスにクラフトビールを注いでいく姿がありました。「このクラフトビールは、とてもさわやかで、白ワインとビールの間にある味わいで、お客さんの中で大変人気です。ブドウを使ったことから、特別な甘さと酸味にフレッシュさが加えられていて、ビールが苦手な女性や若者にとって手に取りやすいアルコールとなっています。」と話します。
「Far Yeast Brewing」社によると、「山梨応援プロジェクト」第9弾は、コロナの影響で売り先がなくなった山梨県内の農作物や加工品の生産者たちと連携し、年明けの発売を目指しているということです。