“八戸テロワール”にこだわったクラフトビールで地域おこしを推進

“八戸テロワール”にこだわったクラフトビールで地域おこしを推進
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コロナ禍以前より、人口減少や若者を中心とする“ビール離れ”などからビール販売量が縮小する一方、小規模な醸造所が造る、個性を追求したクラフトビールが人気を集めている。専門のクラフトブルワリー(醸造所)も増える中、その土地のテロワール(風土)を大事に反映させていくというクラフトビールの原点に立った地域密着型の取り組みで、注目を集めるビール醸造所がある。(取材・文/大沢玲子)

 青森県八戸市南郷地区に位置するカネク醸造だ。2021年8月7日に発売したブランド名は「八戸麦酒」。同社は現会長・山形琢一氏がドイツで飲んだ白ビール・ヴァイツェンの味わいに魅せられたのを原点に、「自分たちで造ってしまおう」と20年に創業。前職の機械修理会社会長からの異色の転身ながら、培ってきたものづくりの経験を生かし、「日本でもクラフトビールブームが本格化すると見据え、Uターンしてきた若者を誘い、事業に着手しました」と山形氏は言う。 

代表取締役会長・山形琢一氏

代表取締役会長・山形琢一氏

目次

青森県産米を使用するなど地元密着型の醸造を実践

 酒造免許の取得や工場の候補地探しからスタートし、20年に現在の地に決定。仕込みタンクの発酵温度をきめ細かく制御する機械をオリジナルで製作するなど、生産環境の整備も手作りで進めていく。

「八戸市南郷地区の特産物を使い、大手ビールメーカーが造れない個性あふれるビールを造りたいと考えていました」と、もともと地域連携を意識していた山形氏。八戸工業高等専門学校と連携し、同校の敷地内にあるツバキの花から採取したオリジナル酵母も採用。青森県産米「まっしぐら」を使用し、南郷地区を拠点とするサッカーJ3・ヴァンラーレ八戸のオフィシャルビール造りも行っている。

「当初は飲食店向けの樽詰めを中心に生産、販売する予定でしたが、コロナ禍で宅飲みニーズに合わせ瓶詰めに変更。流通コスト、保存の問題から想定していた『生』をやめ、冷蔵保存の必要がない加熱殺菌処理(パストライゼーション)を加えたビールにしました」(山形氏)。コロナ禍という未曽有の事態に方向転換は迫られても、味は妥協することなく徹底して追求。予定の6月発売から約2カ月ずれ込んだものの、納得のいく味に仕上げることができたという。

地元小売店をメインに八戸経済の振興を目指す

“八戸テロワール”にこだわったクラフトビールで地域おこしを推進
給食センターだった建物をリフォームした工場。製造から出荷までをここで行う
 第1弾発売の4種、「ホワイトエール」「ヘイジーIPA」「アメリカンIPA」、そしてヴァンラーレ八戸と提携した「ヴァンラーレエール」は、最初の出荷本数を1カ月弱でほぼ完売。その後、「ヴァイツェン」「ゴールデンライト」の2種を加え、使用するホップや酵母、発酵スタイルなどで多様な味わいを楽しめる。

給食センターだった建物をリフォームした工場。製造から出荷までをここで行う

給食センターだった建物をリフォームした工場。製造から出荷までをここで行う

 山形氏のこだわりは流通・販売スタイルにも及ぶ。直販は22年にスタートするECサイトに限定し、地元への経済効果を見据え、八戸市内のスーパーや百貨店、道の駅などで取り扱う。ヴァンラーレエールの売り上げの一部は同チームに還元する仕組みだ。「まずは地元に愛される商品になることが大前提。地域循環で八戸経済全体の振興を第一に考えています」と山形氏。漁業を主産業としてきた青森県下北郡佐井村の新事業創出による村おこし計画にも参画。同村が手がけるホップを使ったビール醸造をはじめ、ビールやホップを軸としたツーリズム構想も支援する。

 今後は、コロナ禍の収束を見据えた飲食店などへの展開と、「私ども生産者、スーパーのバイヤーさんなどの流通、購入するお客さまの三者を結び、意見を交換し合う取り組みを実践し、息の長い商品へと育てていきたいですね」と山形氏。さらなる収益アップを目指し、第2、第3の事業の柱も構築していく構えだ。

 将来的にクラフトビール事業は若い世代に任せ、地域振興につながる新たな事業を起こしたいと意欲的に語る山形氏。八戸愛あふれるチャレンジは今後も続く。

“八戸テロワール”にこだわったクラフトビールで地域おこしを推進 「八戸麦酒」シリーズ。左から「ヴァイツェン」「ホワイトエール」「ゴールデンライトエール」「ヘイジーIPA」「アメリカンIPA」「ヴァンラーレエール」。パッケージには南郷地区にある猫屋敷という地名と南郷サマージャズフェスティバルにちなみ、猫と楽器があしらわれている ●株式会社カネク醸造 事業内容/クラフトビール製造・販売、従業員数/3人、所在地/青森県八戸市南郷市野沢屋敷添14-2、電話/0178-38-5474、URL/kanekujyozo.com

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「八戸麦酒」シリーズ。左から「ヴァイツェン」「ホワイトエール」「ゴールデンライトエール」「ヘイジーIPA」「アメリカンIPA」「ヴァンラーレエール」。パッケージには南郷地区にある猫屋敷という地名と南郷サマージャズフェスティバルにちなみ、猫と楽器があしらわれている
●株式会社カネク醸造 事業内容/クラフトビール製造・販売、従業員数/3人、所在地/青森県八戸市南郷市野沢屋敷添14-2、電話/0178-38-5474、URL/kanekujyozo.com

ダイヤモンド・オンライン
“八戸テロワール”にこだわったクラフトビールで地域おこしを推進 コロナ禍以前より、人口減少や若者を中心とする“ビール離れ”などからビール販売量が縮小する一方、小規模な醸造所が造る、個性を追求したクラフトビールが人気を集めている...
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