【山口周x朝霧重治】少数でも絶対的なファンを持て。中小企業のブランド戦略

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規模は小さくても、独自の製品や技術で世界規模の活躍を見せる企業を発掘・表彰するForbes JAPAN「スモール・ジャイアンツ」。12月8日、ライブ配信で開催されたアワードの特別企画として、山口周(独立研究者/著作家/パブリックスピーカー)と朝霧重治(共同商事 コエドブルワリー代表取締役兼CEO)が対談。モデレーターは、Forbes JAPAN Web編集長の谷本有香が務めた。

小さな組織であってもファンを増やすためにはどうすればよいのか。限られたリソースの中で商品にどのようなストーリーを吹き込んでいくべきなのか。「中小企業のブランド戦略のカギ」をテーマに2人が語った。

目次

クラフトビール「COEDO」に見る復活の方程式

トークセッションは、共同商事のコエドブルワリー(埼玉県川越市)が生産するクラフトビール「COEDO」の試飲から始まった。

共同商事は2019-2020の大会でグランプリを獲得し、クラフトビール市場の立ち上げを牽引した企業の1つとして知られている。多くの食品メーカーがコロナ禍の影響を受ける中、2021年度も増収増益を達成。成功を収めているようにも見えるが、その道のりは決して平坦なものではなかったという。

同社は1996年に「小江戸ブルワリー」を設立。当時のブームに乗り、地ビール事業に参画するも、1998年以降ブームが終焉に向かうのと同時に売上が低迷した。そんな中、2006年にリブランディングを決意。現在の定番となっている5種類の味を新ブランド「COEDO」として同時発売したことが転換点となり、2010年には世界最大規模の商業用ビールコンテスト「ワールドビアカップ」を初受賞するまでに至った。

コエドブルワリー代表取締役兼CEO 朝霧重治

コエドブルワリー代表取締役兼CEO 朝霧重治

その道のりを聞いた山口は、ブランディングを「製品の持つ意味をつくっていく作業」と定義したうえで、地ビールブームの終焉とともに消えていった企業と、コエドブルワリーのようにその後復活を果たした企業の違いを、次のように説明した。

「賞味期限の非常に短い言葉でブランディングしてしまうと、時代とともに沈没していきます。その一方で、お客さんは正直で、いくらブームで盛り上がっていても、美味しいかそうじゃないかという判断軸で最終的には切り捨てていくもの。だから、本当に良いものをつくり続けられなければ、やっぱり消えていくことになる」

90人の『まぁ良いんじゃない』より、5人の『絶対にこれがいい』

中小企業の経営者がブランディングの際に意識すべきポイントとは何か。この問いかけに対して、山口は「尖り」、朝霧は「理想の世界はどのようなもの?」という言葉をそれぞれ掲げた。

山口は「尖り」が意味するものをこう説明する。

「何かモノを売り出したり、サービスを開発したりするときには、消費者側からのさまざまなリクエストに応えようとします。しかし、その全てに対応しようとしているうちに訳が分からなくなって、結局何者にもなれなくなってしまう場合がある。

大事なのは、100人のうちの90人くらいが『まぁ良いんじゃない』って言ってくれることよりも、たった5人でも『絶対にこれがいい』って言ってもらえること。

つまり、『取るマーケット』と『捨てるマーケット』、また、『相手にするお客さん』と『相手にしないお客さん』の違いをはっきりさせて、対峙すべきターゲットの切っ先を尖らせていくことが非常に重要なんです」

しかし、実際に「尖り」にこだわるのは簡単ではないかもしれない。尖らせていくべき強みがそもそもどこにあるのかが分からない企業もあるだろう。谷本は、「中小企業がどのように尖りを見つけ、先鋭化させていくべきなのか」という疑問を投げかけた。

モデレーターを務めた谷本有香

モデレーターを務めた谷本有香

すると山口は、「自信」の大切さを説いた。

「例えば、家電業界にバルミューダという会社がありますが、そこの商品開発の基本的な考え方は、社長の寺尾(玄)さんが心底欲しいと思ったものだけをつくること。実際、桁違いに高額な価格で販売されても、購入者はたくさんいるでしょう。

『尖り』っていうのは世の中や自分の外側にあるものじゃなくて、自分の内側にある好みとか信念とか、価値観みたいなものを突き詰めていくところで生まれてくるものだと僕は思っています」

山口が言及した「尖り」の重要性は、朝霧の掲げた言葉にも通ずるものがある。

コエドブルワリー創業のきっかけにあるのは、「豊かなビールの楽しみ方を人々に提案したい」という想い。朝霧は、自分たちの理想の世界を具体化していくなかで、切り捨てていくべき領域がおのずと明確になっていったと話す。

「いまでも、良い意味で顧客の声を聞かないです。特に、資本が限られている我々のような小さな会社にとっては、顕在化したニーズの製品化よりも、もう少し先にある未来で理想を形にした提案をし続けることの方が大切だと考えているので」

変わってゆくファンの形、変わらないブランドの理念

山口は、企業のブランディングが明確であることの重要性を、「係」に例えて次のように指摘する。

「パタゴニアだったら環境保護、テスラだったらサステナブルエネルギーへの転換促進というように、『あなたは何の係なの?』って聞かれたときに、ブランドがクリアな会社ほど『これをやってます』って断言できると思うんですね」

これは逆に言えば、敵の顕在化に繋がる。山口に言わせれば、理想の世界を阻害している者は全て敵になるため、「同じ敵を倒したい」と思っている人がそのブランドのファンとなり、株主や顧客、従業員といったステークホルダーを形成していくのだ。

「本来の資本主義というのはそういうものであって、僕が言う『資本主義をハックしよう』というのは、資本主義のシステムを上手く使いながら理想の世界をつくるための仲間を集めていくことを意味しています」

山口周

山口周

加えて、ファンの在り方は、デジタル化の進展によって変化しつつあるという。インターネットが発達した現代は、その企業が発信している情報以上に、その企業の周りにいる「ファンになった人」が発信する情報が要になっていると山口は話す。

「100人のうち1人か2人でも強烈に好きになってくれる人がいれば、成立するのがいまの世の中なんです。『これが素敵だと思う』というものを徹底的に突き詰めると、その人と同じ感性を持った人が強く共感してくれるっていうことが、いろいろなところで起こっているんですよね。

例えば、キャンプ事業で有名なスノーピーク。YouTubeで社名を検索にかけると、世界中のファンが、まるでエバンジェリスト(伝道師)のようにブランドの素晴らしさを拡散していることが分かるんです」

これに対して、朝霧も「中小企業やスタートアップが成功しやすい環境が整ってきている」と賛同した。

その一方で、いくら優良とされた企業であっても、時代の荒波の中でそのブランド力を減退させていった事例は存在する。対談の最後に、谷本は、サステナブルなブランドを構築するためのヒントを2人に聞いた。

山口は、「それぞれの人が想うことには必ず価値がある」としたうえで、ヒューマニティ(人間性)に根差すしかないと答えた。

「どこかに無理があったり、何かに犠牲を強いていたりするブランドって、いつか消えていっちゃうと思うんですね。仮にブランドが衰退していった場合、復活のために立ち返るべきなのは『原点』なんです。創業時の理念って基本的に人間性に根ざしているものなので」

一方、朝霧はこれまでの歩みを振り返るように次のように話した。

「創業者の考えた理想って、非常に哲学的なものなので、変えてはいけないことだと思います。だけど、この社会の在り方そのものや生活の仕方が変わっていったら、やっぱり変えなければいけないことはどうしても出てきますよね。

大切なのは、コアな部分とそうじゃない部分を行ったり来たりしながらブランドの在り方を考えていくこと、そう私は思っています」

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