宮城県内で唯一ホップ栽培を手掛ける石巻市の一般社団法人「イシノマキ・ファーム」が市内初となるクラフトビール醸造所を新設する。4月に誕生する拠点は、かつて観客でにぎわった市中心街の映画館跡地。委託生産しているクラフトビール「巻風(まきかぜ)エール」を自分たちで仕込み、街中に新しい風を吹かせる。
ビール造りの場に選んだのは、旧「日活パール劇場」。1957年に開館し、60年にわたり多くの映画ファンを呼び込んだ。東日本大震災で被災したが、約3カ月後に再開。押し寄せた高さ2・5メートルの津波の痕跡が今も残る。2017年6月に営業を終えた。
解体の危機だった
今年1月、175平方メートルの土地と木造一部2階建ての建物が売りに出ているのをイシノマキ・ファームのスタッフが見つけた。買い手が付かないと解体されると聞き、代表理事の高橋由佳さん(57)は「石巻にとって大事な場所ではないか」と思った。下見で現地を訪れ、踏み切れずにいた醸造所開設の決意を固めた。
スクリーンと150の観客席があった「シネマ1」で改修工事を進める。醸造タンク4基を据え、年間60キロリットルのクラフトビールを生産する計画。年間70~80キロに上るホップの収穫量を100キロ以上に増やすことも目指す。
醸造所にはビールの量り売りコーナーや、テーブルと椅子を置いた語らいの場を設ける。80席が残る「シネマ2」では映画や映像を楽しむ催しを考えている。
人がつながる空間に
イシノマキ・ファームは16年8月、障害者らに農業を通じて心のケアや就労の機会を提供しようと石巻市北上町に設立。17年春にホップ栽培を始め、その年の夏、巻風エールを醸造した。現在は世嬉の一酒造(一関市)に生産を委託している。
高橋さんは「クラフトビールをきっかけに往事を懐かしむ世代と若い人たちが語り、つながれる空間をつくりたい」と話す。